大人の発達障害かもしれないと思ったら――診断より先に整理したいこと
大人になってから、「自分は発達障害かもしれない」と感じる方がいます。
仕事の段取りがうまくいかない。
忘れ物やミスが多い。
人間関係で疲れやすい。
空気が読めないと言われる。
片付けが苦手。
先延ばしが多い。
会議や雑談がつらい。
子どもの頃から何となく困っていたけれど、大人になってから仕事や家庭の中で困りごとが目立つようになることがあります。
一方で、仕事や人間関係の困りごとは、発達障害だけで説明できるとは限りません。
うつ状態、不安、睡眠不足、強いストレス、職場環境との相性などでも、似たような困りごとが起こることがあります。
大切なのは、診断名を急ぐことだけではありません。
今、何に困っているのか、どの場面で困るのか、どのような工夫や支援が必要なのかを整理することです。
大人になってから発達特性に気づくことがあります
発達障害は、子どもの頃からの特性として現れるものです。
ただし、子どもの頃には大きな問題として見えにくく、大人になってから困りごとがはっきりしてくることがあります。
たとえば、学校生活では何とかやれていたけれど、就職してから急に難しくなる方がいます。
学校では、時間割や課題、やることがある程度決まっています。
しかし、仕事では自分で優先順位を決めたり、複数のタスクを同時に進めたり、曖昧な指示を理解したり、人間関係を調整したりする必要があります。
その中で、もともとの特性が目立ちやすくなることがあります。
また、結婚、子育て、昇進、転職など、生活上の役割が増えたときに困りごとが強くなることもあります。
「今まで何とかやれていたのに、なぜ急につらくなったのか」と感じる方もいますが、環境が変わることで、それまで見えにくかった特性が表に出ることがあります。
よくある困りごと
大人の発達特性に関連して、次のような困りごとが相談されることがあります。
- 仕事の段取りが苦手
- 優先順位をつけるのが難しい
- 締切を守れない
- 忘れ物やミスが多い
- 片付けや整理が苦手
- 先延ばしが多い
- 会議の内容が頭に入りにくい
- 口頭の指示を忘れやすい
- 雑談が苦手
- 人との距離感がわからない
- 空気が読めないと言われる
- 曖昧な指示が苦手
- 音や光、においなどに敏感
- 予定変更が苦手
- 一つのことに集中しすぎて切り替えにくい
- 家では疲れ切って何もできなくなる
こうした困りごとは、本人の努力不足や性格だけで説明できないことがあります。
一方で、困りごとの背景は人によって違います。
ADHDの特性が中心の方もいれば、自閉スペクトラム症の特性が目立つ方もいます。
また、発達特性に加えて、うつ状態や不安、睡眠の問題が重なっていることもあります。
発達障害だけで説明できるとは限りません
「自分は発達障害かもしれない」と思って受診される方の中には、実際にはうつ状態や不安、強いストレスの影響が大きい方もいます。
たとえば、うつ状態では集中力や判断力が落ちることがあります。
そのため、仕事のミスが増えたり、段取りが悪くなったり、メールの返信ができなくなったりすることがあります。
不安が強いと、確認に時間がかかる、相手の反応が気になりすぎる、会議や電話が苦痛になる、ということもあります。
睡眠不足が続くと、注意力や記憶力が落ちます。
その結果、忘れ物やミスが増え、「自分は発達障害なのでは」と感じることもあります。
もちろん、発達特性がある方が、うつや不安を合併することもあります。
発達特性そのものだけでなく、その特性と環境の相性、これまでの失敗体験、自己否定感、人間関係の疲れなどが重なって、つらくなることがあります。
そのため、診察では「発達障害かどうか」だけを見るのではなく、現在の状態全体を確認することが大切です。
診断を急ぐ前に整理したいこと
診断名がつくことで、これまでの困りごとが理解しやすくなることがあります。
「自分の努力不足ではなかったのかもしれない」と感じられる方もいます。
一方で、診断名だけで困りごとが解決するわけではありません。
大切なのは、次のようなことを整理することです。
- どの場面で困っているのか
- 子どもの頃から似た特徴があったか
- 仕事、家庭、人間関係で何が問題になっているか
- うつ、不安、不眠などが重なっていないか
- どのような環境なら力を出しやすいか
- どのような工夫や支援が必要か
- 薬が役立つ状態か
- 職場での配慮が必要か
「発達障害ではなかったら困りごとが本物ではない」ということではありません。
診断名がつくかどうかにかかわらず、困っていることは相談してよいものです。
診断はゴールではなく、困りごとを理解し、対応を考えるための手がかりの一つです。
精神科では何を相談できるのか
精神科では、発達障害かどうかだけでなく、今の困りごと全体を整理します。
たとえば、
- 子どもの頃からの特徴
- 学校生活での様子
- 仕事での困りごと
- 人間関係のパターン
- 睡眠や生活リズム
- 気分の落ち込み
- 不安や緊張
- 集中力や注意力
- 衝動性
- 感覚過敏
- 家庭での状態
- これまでの受診歴や服薬歴
などを確認します。
必要に応じて、薬物療法を検討することもあります。
ADHDの症状が生活や仕事に大きく影響している場合には、薬が役立つことがあります。
一方で、うつ状態や不安、不眠が強い場合には、まずそちらを整えることが大切な場合もあります。
また、職場での配慮や診断書について相談することもあります。
ただし、診断書は希望すれば必ず作成されるものではなく、診察で状態を確認し、医学的に必要と判断される場合に検討します。
受診前に整理しておくとよいこと
受診前に、困っていることを簡単にメモしておくと診察で話しやすくなります。
たとえば、
- 一番困っていること
- いつ頃から困っているか
- 子どもの頃から似た特徴があったか
- 学校生活で困っていたこと
- 仕事で具体的に困っていること
- 家庭で困っていること
- 人間関係で起こりやすいこと
- 睡眠や気分の状態
- これまで工夫してきたこと
- 薬や診断書について相談したいこと
などです。
すべてをきれいにまとめる必要はありません。
箇条書きでかまいません。
「何から話せばよいかわからない」という場合でも、診察の中で一緒に整理していくことができます。
当院で大切にしていること
水道橋やまがたこころクリニックでは、発達障害の診断名をつけることだけを目的にするのではなく、その方が今どこで困っているのか、何が生活や仕事を難しくしているのかを一緒に整理することを大切にしています。
発達特性が関係している場合もあります。
うつや不安、睡眠の問題が大きい場合もあります。
職場や家庭の環境との相性が強く影響している場合もあります。
診断名は大切な手がかりですが、それだけで終わりではありません。
どのように生活を整えるか、仕事でどのような工夫が必要か、薬が役立つか、職場での配慮が必要かを一緒に考えていきます。
「大人の発達障害かもしれない」
「仕事や人間関係がうまくいかない」
「診断を受けるべきか迷っている」
「自分の困りごとを整理したい」
そのような段階でも、ご相談ください。
まとめ
大人になってから、「発達障害かもしれない」と感じる方は少なくありません。
仕事の段取り、忘れ物やミス、人間関係、片付け、感覚過敏などの困りごとが、発達特性と関係している場合があります。
一方で、うつ、不安、睡眠不足、ストレス、職場環境との相性などでも、似たような困りごとが起こることがあります。
大切なのは、診断名を急ぐことだけではなく、今どこで困っているのか、何が生活を難しくしているのかを整理することです。
当院では、診断名だけでなく、生活や仕事の中でどう立て直していくかを一緒に考えていきます。
